熊谷総合病院に勤務される横山様。平成18年に日本離床研究会(現日本離床学会)の立ち上げに携わり、現在は学会理事としてご牽引されるだけでなく、地域医療にも幅広く関わられてきました。今回は福祉用具としてのWHILLの可能性について伺いました。
患者さんの”小さなゴール”の達成に寄与する福祉用具の可能性
WHILLについては、部下の紹介で知りました。その後、実際にWHILLさんに病院でデモをしていただく機会があり、そのときは率直に、すごいのが出てきたなというのが感想です。電動車椅子はそれまでにも色々なところで目にする機会がありましたが、直角に曲がれるくらいの小回りや、操作も軽い力で動くところなどが印象的でした。機能面では、初めて体験するようなことが多かったです。
PTOTとしての使命は、患者さんの身体機能回復であることは間違いありません。しかし、社会情勢や状況の多様化などを考え、機器にまったく頼らないのではなく、柔軟に対応していく姿勢も求められます。実際に、現在、病院での平均入院日数は、いわゆる急性期病院は厚生労働省が定める基準において18日以内とされており、10日くらいが平均の病院も少なくありません。
そんな中で、例えば、麻痺が残ってしまった方などに対しては、この日数内で、完全に事故や病気前の元の生活に戻るよう退院するのは難しい状況です。そのような中で、私達ができることというのは、入院期間の中で最大限の回復を目指していくことなのではないかと考えています。また、全快に向かう途中経過であっても、ご自身がどのように自己実現されたいかや、患者さん本人の背景を踏まえ、福祉用具を使い、一つ一つ短期的なゴールを積み上げながら、長期的に目標にむかうというのが大事だと思いますし、機器を使って、こういうことができた、という小さいゴールも通過点としては大事だと考えています
身体の回復だけではなく、その人らしい自立した生活ができる長期的な視点を
私は、患者さんの「数%の可能性でも引き出していくのが必要」だと考えています。その中では、例えば患者さんが望まれているような回復の形が実現できなかったとしても、移動手段としての福祉機器など、代替手段として、いろんなものを使っていく上で生活を送って行くのが大切です。私達が、予後予測の中で、その患者さんがどこまで回復されるのかという見立てをつけて、回復の過程で、患者さん本人が意識されているゴールと、ご本人の身体状況が完全には合致しないとき、身体機能の回復に務めるとともに、用具の活用をする必要があると思います。福祉用具は、お仕事をされている若い人だけに限らず、高齢の方にもおすすめすることがあります。自分らしい生活が送れるように、例えば、高齢の患者さんの場合、福祉用具を使ったほうが安全に移動できたり、転倒を防いだ方がより安全なんじゃないかということもあります。そういったことを考えながら、色々な福祉用具やサービスを組み込んだ上で、最適な方法をお勧めしています。
私としても、患者さんの外出の機会が増え、その方の「チャンス」が増えるのが良いと考えています。他者との関わりを持つことで、その方に頑張ってみようかなという気持ちにさせ、自立のモチベーションを上げる効果もあると考えています。
IADLとQOLの関係性
リハビリをする中で、実際に在宅に戻られることを意識した関りも多くあります。例えば、退院前訪問指導と言って実際にお家に伺い、この導線は大丈夫かな、玄関の上がり框は上がれるかなというふうな確認をすることもありますし、今の身体能力の状況と合わせて何ができる/できないということを、ケアマネさんや福祉用具業者さんと連携して考えることもあります。また、就業年齢の方で職場復帰される場合に、例えば電車に乗って通勤しないといけない場合に合わせ、駅のエスカレーター、改札を降りたあとなど、実際の練習をしてから在宅に入ることもあります。
私が普段、仕事をするときに意識しているのが、最終的には患者さんの長期的回復を想定しながらも、”今現在”何ができるかを問うことと、患者さんが在宅復帰される際により良い状態に近づけるためにできることは何か、ということです。
実は、IADLの実現とQOLの実現は極めて関係性が高いのです。社会生活の中で、自分が元々いた場所に戻ることができれば、ご自身の尊厳の回復にも寄与します。実際に、患者さんご自身の可能性を考えたら、治癒過程でも長くかかる方は在宅リハビリも取り入れながら、長期的な予後を見据え、関わりを持って行くのが最適だと言えると思います。
熊谷総合病院 横山浩康様
平成15年日本リハビリテーション専門学校卒業後、熊谷総合病院に勤務。平成18年に日本離床研究会(現日本離床学会)の立ち上げに携わり、現在は学会理事としてご牽引されるだけでなく、 翌年、日本大学大学院へご入学され人間科学修士号取得。