サスペンションとフレームの連動で安定感のある乗り心地を

写真左から:内野 剛史、平田 泰大(機械技術部 シャシー開発グループ)

路面のデコボコや段差を乗り越えるときの衝撃は、乗っている人にとって想像以上に不快です。特に長時間乗る人にとっては心身の疲労感となってしまうこともあります。そういった不快感を解消し、安定感のある走りを実現するために必要なパーツが「サスペンション」です。車輪と車体をつなぎ、バネの原理で路面からの衝撃や振動を吸収して車体を安定させます。さらに、車体を支えるフレームの素材や設計を工夫することによって、より安定した乗り心地にしています。快適な乗り心地とスムーズな走りにするために、どのような試行錯誤があったのか、フレームの設計担当と、サスペンションの設計担当に話を聞きました。

 

前輪はサスペンションを使った振動・衝撃吸収

前輪にサスペンションをつけ、オムニホイールから座面に伝わる振動と衝撃を抑えています。サスペンションの開発においては、電動車椅子独特のニーズがありました。電動車椅子のサスペンションは、自動車に比べて大きな段差を乗り越える想定で作る必要があります。自動車は路面のデコボコからくる振動を抑えればよいのですが、電動車椅子は路面のデコボコからくる振動と、段差乗り越え時の衝撃の両方に対処しなければなりません。そこで着目したのがオートバイに採用されるスイングアーム式というサスペンション形式です。スイングアーム式は可動性の高く、下方向と横方向の両方の振動と衝撃を吸収することができます。スイングアーム式の採用によって、路面からの細かい振動と、段差乗り越え時の大きい衝撃の両方を軽減できるようになりました。

 

後輪は鉄フレームのしなりを利用して

当初は、後輪にもサスペンションの搭載を考えていましたが、いくつか問題点がありました。サスペンションのスペースを確保すると、後輪周りが無骨になってしまい、Model Cの大きな特徴であるスタイリッシュなフォルムが損なわれてしまうことです。その上、重くなってしまうので、「自動車に簡単に乗せられる」というModel Cのコンセプトに合わなくなってしまいます。車体のシルエットと軽量化を考慮して、サスペンションがなくても快適に走ることのできるように、フレームをしならせて衝撃を吸収する構造を考えました。

Model Cは基本的に軽量のアルミで構成されていますが、左右の後輪と車体を支えている部品は唯一、鉄で作られています。この鉄の部品をしならせて衝撃を吸収しているんです。鉄はうまく設計すれば、しならせても折れません。そういった鉄の特性を生かして、後輪から座面への衝撃をフレームで吸収する設計にしました。強度解析を繰り返しながら、フレームの弱点を一つ一つ適切に潰していくことで、固く重くなりすぎない「しなやかな設計」を目指しました。

心地いい乗り味を作っていく

振動をゼロにすることは難しいですが、乗っている人にとってどのような乗り味が心地いいと感じるのか、研究していきたいと考えています。乗り心地の良さから、WHILLに対する安心感や快適さを感じ取っていただけるように今後も改良を続けます。

機械技術部 シャシー開発グループ

グループリーダー 平田 泰大 (Yoshihiro Hirata)

日本大学 生産工学部 機械工学科卒業。曙ブレーキ工業で自動車のブレーキ設計に関わった後、2014年にWHILLに入社。機械技術部 シャシー開発グループ グループリーダーとして、WHILLのシャシー(車体全体の構造)部分の設計に従事。

メカニカルエンジニア 内野 剛史 (Tsuyoshi Uchino)

鹿児島大学 工学部 機械工学科卒業。ホンダから2016年にWHILLに入社。機械技術部 シャシー開発グループ メカニカルエンジニアとして、WHILLのシャシー部分の設計に従事。

 

 

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